たかのサイコロ日記

地理情報を勉強しているベルリンの大学院生が、考えていること。

私たちの街

新型のウイルスが世界中で流行した。そのウイルスの致死率はとても高く、ワクチンはまだ見つかっていなかった。多くの人が死に、人々は感染を恐れて家から出歩かなくなった。しばらくして、そのウイルスが小さな隙間からでも入り込み感染することがわかると、人々は巨大なシェルターを作り、その中に閉じこもって暮らしながら、ウイルスがいなくなるのを待った。

すべての人がシェルターに籠もるようになってから、地震の数が急に増えた。シェルターは特別頑丈に作られていたから、壊れる心配はなかったが、それでも人々は自分たちの街がどうなってしまっているのか、不安そうに顔を見合わせた。


数ヶ月がたち、外気からウイルスがぱったりといなくなっていることが発見された。
「助かった。ウイルスのやつも感染する相手がいないんじゃ生きていけないんだろう。」
「ああ、シェルターでの暮らしはやっぱり不便だったからな。街に戻ればなんでもあるぞ。」
人々はそう口にしながらシェルターの扉をくぐった。
「なんだこれは。私たちの街が跡形もなくなって、荒れ地になってしまっている。」
「あれだけ地震があったからな。街はきっと津波にでも流されてしまったのだろう。仕方ないさ。」
「これをすっかり元の街に戻すのに50年はかかるぞ。」
人々はがっかりしながらも、街をもう一度作り直すための仕事にとりかかった。

 

それを遠くから見ていた宇宙人は、満足そうに頷きながら言った。
「しめしめ、またうまくいった。シェルターごと、地球によく似た惑星に運べば、やつらは何度でも街を作り出してくれる。数多くいる家畜動物の中でも、人間ほど熱心に働き続ける動物はいないからな。」
この星のはずれに、見覚えのない看板が建てられていた。
『売約済み。完成予定日50年後。』